ばね技術遺産とは

ばね技術の保護のため、
調査・顕彰を行っております。

日本ばね学会では、学術的な活動に加えて、ばね技術遺産の保護と顕彰も重要な使命と考えています。 当学会は、ばね製品やばねに関連する機械装置、歴史的産物、文献を調査し、認定基準に照らして適合するもの、すなわち技術的価値の高いものをばね技術遺産として認定しています。認定された技術遺産には、認定証と表彰状を授与し、事情の許す限り、その保護にも努めてまいります。

認定基準

  1. (1)ばね製造・試験技術の進歩に著しく寄与した機器
  2. (2)現存する歴史的なばね加工機械及びばね試験機
  3. (3)技術的な独創性・新規性によりばねの加工技術に革新をもたらした機械
  4. (4)ばね業界の発展に著しく寄与した機械
  5. (5)ばね機能の応用を主な特徴とする歴史的な機械装置あるいは輸送機器
  6. (6)技術的な独創性・新規性により革新をもたらしたばねの初期製品
  7. (7)現在は製造されていないが、かつて社会の発展に寄与した歴史的意義のあるばね
  8. (8)ばね技術の発展ばね技術及びばね用材料を知るために重要と思われる文献や書籍

認定機器類/ばね

認定機器
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リング成形機 RMF-50WA型

製造年:1985

本機はリング成形機構とプレス切断機構を有するリング成形機RMFシリーズの原形である。その機構は圧縮コイルばね成形機CMシリーズをベースに開発され累計320台超の生産実績を有する。丸線の他に平線によるリングも成形でき、切断金型によりリングの切れ目がハの字やかぎ形なども可能である。従来の帯板材をプレス機で打ち抜く成形法に比べ材料の均質性と歩留りを大幅に向上させた革新的な機械である。ワンウェイクラッチ式の線送り機構は4段階に変速可能であり、かつ変速機を介し切断機構と連動しているため、変速時の切断のタイミングの調整を必要としない。本機はトランスミッション用のリングの生産性向上に貢献するなど、技術史的に高く評価される。

認定機器
43

ADS 0型 カットワイヤー切断機

製造年:1974

本機はショットピーニング用ショット材をカットワイヤー方式で製造する契機となった輸入1号機である。従来の鋳物スクラップのショット材には、強度不足による破損や形状不均一からの仕上がり粗さやワークへの残留の課題があった。ばねの高性能化に伴うばね材の高硬度化に対応して、当該ショット材はその均一形状と700HV以上の硬度を実現した革新的なもので、多くのばねメーカーに採用された。20本のワイヤーをローラーで引込み、固定刃と回転刃により切断する構造で、2段変速の回転刃の速度に合わせてワイヤー送り速度を無段階調整し、材料径と同寸法での切断加工を可能にした。 その後、国産機で改良を重ねたが本機は当時の原形を留めており 技術史的に高く評価される。

認定機器
42

マルチスライドマシン MS-28

製造年:1968

本機は旭精機工業株式会社がトランスファープレス機で世界的に定評がある米国のU.S.Baird社と1964年に技術提携して開発されたもので、ダイヘッド装置やスライドおよび加工ユニットを複数搭載でき、タッピングなど二次加工が必要な薄板ばね製品の成形を一台で完結できる多用性と柔軟性に優れた画期的な機械であった。シリーズとして250台超の出荷実績があり、自動車エンジン用ディストリビュータのアームばねのほか、ビデオデッキや炊飯器をはじめとする多種多様な部品の生産に活用され、自動車産業および家電産業の発展に寄与した。本機は開発当初の原形を留めており、歴史的・技術史的に高く評価される。

認定機器
41

STB-1C型 ドラム式表面処理装置

製造年:1977

本機は 1951年に世界初のドラム式機構として開発された表面処理(ショットピーニング)装置の原形を留めている。構造は 回転遠心力によるショット材噴射機構とワークを回転攪拌させるドラム機構からなり、均一な表面処理および処理後のワーク残留回避性に優れる点から、精度・耐久性・生産効率化に大きく寄与した。 本機はレースカー用弁ばねなど要求性能の高い分野で使用され、 今なお現役最古機として稼働中である。シリーズ累積1500台超の圧倒的シェアと実績を誇り歴史的・技術史的に高く評価される。

認定文献

認定文献
26

Mechanical Springs / Their engineering and design

出版/発行:1952

本書は米国のAssociated Spring社がばね設計者及びばねユーザー向けに無償で提供した一連の書籍のひとつである。線ばね、薄板ばね、及びばね作用を持つ機械部品の種別ごとに、使う立場、設計する立場から必要となる知見を詳細に記述している。ばね材料の一覧表には機械的性質に加えてどのようなばねに適しているかを記述しており、ばね設計公式、各種図表と共に利便性を高めている。製品に加えて生産・検査ラインなどに携わっている人々の写真も随所に挿入されており、当時のばね産業の息吹が感じられ、歴史的価値が高い。

認定文献
25

HELICAL SPRING TABLES (1st Edition)

出版/発行:1955

本書は、圧縮コイルばね及び引張りコイルばねの設計簡素化を目的としている。機械要素としてコイルばねを設計する場合ばねの基本性能だけでなく設置スペース、最大荷重、寿命等の様々な制約要件があるが、それらの要件に合致又は近似のものを図表の中から選ぶことにより、所望のコイルばねの設計仕様が見出せるようにしたものである。これにより設計者は試行錯誤的な設計の手間を大幅に省くことができるようになった。本書は設計の手引書として実用的・技術史的価値が高い。

認定文献
24

FLEXIBLE BARS

出版/発行:1962

本書は長柱、梁、円輪など細長い弾性体の大たわみ問題を系統的に解説した数少ない専門書で 大たわみ曲線の理論解析法と近似解法を示した後、いろいろな大たわみ曲線を単純な大たわみ曲線に分解して解析する方法を示している。本書で示された諸解析は線ばねや各種薄板ばねの大たわみ特性に関わるもので、特に本学会の水野正夫元名誉会員によるコイルばねの座屈曲線解析が1960年当時、最新の大たわみ解析として紹介されていることもばね技術史的に興味深い。

認定文献
23

SPRING DESIGN AND CALCULATIONS NINTH EDITION

出版/発行:Herbert Terry and Sons Limited(1958年)

本書は1855年創業の英国のばねメーカーHerbert Terry and Sons Limitedの研究開発スタッフRoberts氏が編集したばね設計者及びユーザー向けばね設計・計算解説書である。1947年の初版発行から1958年まで9版を重ねている。各種ばねのばね、定数公式のみならず実際の数値を用いた計算過程を示しているので平易な入門書としての性格を持つ一方、ばね使用上特有な諸問題を取扱っているので実用的・技術史的価値が高い。