Tech322c07

技術者の心得 : 品質管理に関する10ヵ条(その7)

品質管理は自分が日常行っている健康維持と同じである

西畑三樹男  森川 愼

品質と安全は同じだ

 昔のプレス屋は指の1本や2本ないのは当たり前で、それでなければ一人前のプレス屋 ではないと言われた。ところが今時こんなプレス工場では働き手が一人もきてくれない。 そのために危険な職場ほど安全対策が徹底されている。例えば、プレス工場ではクレー ンの取扱いや玉掛けの資格を取らせたり、プレス機の取扱い訓練が確実に行われ、また 作業能率が落ちても操作は必ず両手ボタンで行うなどの安全対策、標準化、訓練等を徹底 して行い、安全を守っている。
 当社においても、プレスやダイカストのように一見危険に見える職場では、逆に災害 の発生が少なく、軽作業のところで小さな災害が多く発生している。このことは危険な職 場では問題の予知予測と予防が真剣に行われ、決め事をしっかり決めて守るからである。
 安全の予知予測は …品質のFMEA&Aに対応する。
 安全の決め事は  …品質の作業標準などの各種の標準類に対応する。

ところが、この決めごと(作業標準)は油断していると、決めたはずが実は何も決めていなかっ たことになる。と言うのは、現場を廻って見ると、品質の作り込みの基本となる作業標準が現場 から遊離して、単なる飾り物になっている例を時々見かける。試しに抜取り作業標準を出させてみると、

 ・作業標準が決められた場所に表示されていない。

 ・作業標準がすぐ出てこない。また見つからないことがある。

 ・作業者の確認の欄を見ると、サインがされていないものがある。このサイン欄は新 たにこの工程に就くとき、作業標準に基づき教育し、作業をマスターした時点で作業 者自身がサインをする決めごとになっている。と言うような、決めごとの基本を守っ ていないことがある。先ず責任者が率先して決めごとを守り、そのうえで作業者の指 導をしなければ、品質は守れるわけがない。
 第二次大戦中に連合艦隊指令長官だった山本五十六海軍大将は、戦争中で人間が 人間として扱われなかった時代に部下に対して、『やって見せ、言って聞かせ、 させて見て、褒めてやらねば人は動かず』と言われたそうで、今の世の中にもそ のまま通じる言葉である。
 安全に関する有名な法則に、ハインリッヒの法則がある。300のヒヤット!し たり、ハット!するようなことがあると、その中から29件の軽いけがを発生 する、そのまま放置すると1件の重大災害につながる(300:29:1)と言う法則である。
 日常皆さんの担当している工程の中に、不良が日々発生していて(300)、そ れを放置しているようでは、やがてそれが流出して得意先でC級不良(注意で済む 軽い不良)の発生につながり(29)、その中からB級、A級と言うように重大(1)ト ラブルへとつながって行く。

『これを防止する決め手は安全と同じように小さな不良(災害)を“ゼロ”にすることである』