技術者の心得 : 製造技術に関する10ヵ条(その10)

物作りほど魅力と満足度を同時に味わえるものはない

西畑三樹男  森川 愼

どんどん“カンニング”をやれ

 学校のテストや発明ではカンニングは違反になる。
 我々がやる製造の現場では、いかに既存の技術の上に立って、それを上手に組合わせて、 新しい製造手法や設備を確立して、お客様に喜ばれる良い製品を安く提供するかが重要で ある。そのためにはカンニングをどんどんやっても良い。しかしそれらを自分の技術とし て蓄積し、大いに活用することが大切である。
 本田技研が四輪車の最後発メーカとして、昭和38年に二輪車から四輪車の生産を始めた 当時は四輪車の製造設備についての知識と経験が大変不足していた。
 例えば、ボデーやシャーシーの搬送やストレージに良く使われるオーバーヘッドコン ベヤー(P&Fタイプ)の計画の仕方・使い方が良く分からなかった。しかしこんなこ とはライバルメーカは教えてくれない。そこで、今だから(時効)話せると思うが、 ○○社にもぐり込み、コンベヤーのメンテナンスと称して塗装や組立工場の天井裏ま で入り込んでノウハウをカンニングしたことがあった。こんなやり方は決して良い方法 ではないが、短期間に四輪車の製造ノウハウを確立する手段としてカンニングも必要だ ったということである。
 最近の急激な円高を乗り切るためには、ライバルメーカに負けない生産性と、高品質 な製品を作らなければならない。その実現のためには新しい技術の吸収に貪欲になって欲しい。

 など大いにカンニングをして欲しい。井の中の蛙になっては進歩はない。このように 苦労して吸収した知識や経験は、本当に自分のノウハウとして血となり肉となるものである。
 当社で、今進めている生産性向上活動があるが、自動化を進めるうえで自動機を外か ら買ってきてやるのは簡単だ。しかしこれでは自社の技術は育たないし、また金がかか り過ぎてペイしないだろう。この活動の中で進めている手作りの自動化は、当社にマ ッチングした独創的な設備を自分たちで考え、安く、タイミング良く自社で作れるよう な企業体質にしたいということである。必要なことはカンニングでも良いからどんどんやって欲しい。