技術者の心得 : 製造技術に関する10ヵ条(その2)

物作りほど魅力と満足度を同時に味わえるものはない

西畑三樹男  森川 愼

Know-Howは使ってこそ価値がある

 当社が創立されて42年になるが、同じ年月の間に、当社よりも発展した会社もあり、 また逆に発展しなかった会社もある。これは経営者の手腕によるところもあるが、 もっと重要なことは、社員一人ひとりの努力と技術力がその会社が発展しうるか否か のカギを握っていると思う。
 高い技術力を持った社員がたくさんいてベクトルが集中されれば、新しい商品開発、 高品質で安価な構造方案が次ぎつぎと生まれてきて、その結果、付加価値の高い、 競争力の強い商品ができる企業体質が作れる。これとは逆に、自社技術がなくて、 図面や、材料、部品などを支給して貰って賃仕事に明け暮れ、自立性のない、 付加価値の低い仕事をしているようでは、その会社の発展はあり得ない。
 皆さんは“Know-How”と言う言葉をよく使ったり、耳にすることがあると思う。 「優秀なKnow-Howを持った会社」だとか「Know-Howを蓄積した」とか言うようである。 ではここでKnow-Howについて少し私の経験をお話ししよう。

 私が学校を卒業して就職し、初めての職場で生産技術に配属されたとき、いきなり意地の 悪い職長に試されたことがある(後になって見ればよい経験だった)。それは、歯車で転位を してあるベベルギヤの図面が新しく出てきた。これを唐津の歯切盤で加工するのに、“セッテ ィング値と歯形測定値を出してくれ”という依頼でした。私は大変困ってしまった。学校では 歯車も一応は勉強し、確かに試験はパスしましたが、そんなレベルでは役に立ちません。 早速、神田の古本屋へ飛んで行き、歯車に関する本を買ってきて必死に勉強をし、また先輩に も教えて貰って何とか答えをだすことができた。今でもその本の歯車のところだけは真っ黒に 汚れていて一目で分かる。意地悪職長のお蔭で一度に歯車をマスターできたと同時に、今でも それが役に立っている。このように失敗や苦労をして自分なりの血となり、肉となるような 技術がKnow-Howだと思う。

 皆さんは日常品質や設備トラブルの解決に当たって経験をしたKnow-Howを、工程の中に落し 込んだり、図面に反映したりしていますね。ところが私が見ていて大変残念なことは、せっか く掴んだKnow-Howがその場限りで終わっていることがある。その結果、同じ失敗をまたやって いることがある。Know-Howを掴むことも大事であるが、それを拡大利用し、更に継続するこ とが大事である。
 ここで丁度よい事例が最近あったので話をしてみよう。アルミのハウジングにオイルシール (外周がゴムのもの)を圧入するとき、ゴムを噛ってめくれてしまう場合がある、と言う例である

(1) 亀山工場で
…当社の主力製品であるディストリビュータのハウジングにオイルシールを圧入するとき、 シールの外周が噛ると言う問題があった。ハウジングの内面の面粗度を良くしたり、 C面取りをしたりして見たが、それでも時々噛ることがある。いろいろとテストをして見 た結果、簡単なことだが、シールにオイルを少し塗布(ここがKnow-How)してやれば良いこと が分かった。対策としてスポンジにオイルを含ませておき、シールにつけてから圧入するよ うにして解決した。
(2) アメリカの工場を建設するとき
…埼玉工場のプロジェクトメンバは、このKnow-Howをトスされていたので、計画段階で自動組 み立機の中にこのKnow-Howを取り入れて成功した。(拡大活用)
(3) 九州工場で
…PW4ポジションセンサという新製品が出たときに、同じような構造の部分で、同じような問題 が発生した。調べて見ると、九州工場の担当者がこのKnow-Howを知らなかった。(工場間トス不備)
 この例が教えていることは、
ということである。同じ失敗を繰り返さないように、Know-Howを拡大活用することが会社発展の近道である。 その道具として、新製品開発評価制度や、全工場が一緒にやる品質会議や、Know-How集や、失敗事 例集などがある。これを生かすも殺すも皆さんの心掛け次第である。