Tech303

技術者の心得 : 実験の進め方に関する10ヵ条(その5)

開発と実験には技術者が必ず通る道がある

西畑三樹男  森川 愼

実験の具体的手法(実験結果に捨てるものはない)

 技術屋のかけ出しの頃は、先輩に言われたとおりの実験しかやらず、 それが失敗しても“俺の責任ではない”とあまり気にもせず、失敗した 実験試料や記録紙などを簡単に捨ててしまうのである。

 これは、最初の中は許されるものであるが、二、三度繰返した場合は、 開発要員、研究技術者としては認められないようになる。このようにな らないため、実験中には、まず、つぎの事項を知らなければならない。

(イ)求めている特性(例えば、物理的なもの)意味の把握。
記録紙上や画像に現われるデータの中にある、物理的、機械的、電気的、 化学的意味を、まず、理解しながら考える。
(ロ)実験過程にみられる特異現象は見逃さない。
 実験中、一番実入りの多い情報は、実験途中にみられる特異現象である。例えば、 金属材料の疲労試験中に遭遇する振動音、試料に発生する熱、さらには、一日経過し ただけで進行する錆など、目や耳から入る現象である。
 これには、機械を連続運転し、連続運転中と貼紙だけを吊して、一日一回のその場 に行くようでは、実験を行っているとは言えない。
 実験の上手な人、記述論文を多く提出する人は、この特異現象を自分流に取入れ、 その利用を考える人で、これが人によって違う奥の手である。
(ハ)マイナスデータの転用は絶えず考える。
 成功する実験は、失敗や途中座折実験の数分で一である。大事なことは、失敗、 すなわち、マイナスデータを大切にすることで、その転用はいつも頭におくことである。